水疱瘡について
水疱瘡とは
水疱瘡とは、いわゆる「みずぼうそう」のことです。水痘(すいとう)という呼び名もあります。
水痘帯状疱疹ウイルスというウイルスによって引き起こされる発疹性の病気です。
空気感染、飛沫感染、接触感染により広がり、その潜伏期間は感染から2週間程度と言われています。
発疹の発現する前から発熱が認められ、典型的な症例では、発疹は紅斑(皮膚の表面が赤くなること)から始まり、水疱、膿疱(粘度のある液体が含まれる水疱)を経て痂皮化(かさぶたになること)して治癒するとされています。一部は重症化し、近年の統計によれば、我が国では水痘は年間100万人程度が発症し、4,000人程度が入院、20人程度が死亡していると推定されています。
水痘は主に小児の病気で、9歳以下での発症が90%以上を占めると言われています。小児における重症化は、熱性痙攣、肺炎、気管支炎等の合併症によるものです。成人での水痘も稀に見られますが、成人に水痘が発症した場合、水痘そのものが重症化するリスクが高いと言われています。
有効な予防法は予防接種です。2014年10月1日から、水痘ワクチンが定期接種となりました。
厚生労働省のページより、一部改変
水疱瘡の特徴と診断
水疱瘡の潜伏期間は10日から21日間です。特徴的な症状は水疱(水ぶくれ)と38℃前後の発熱で、全身に直径3~5mm程度の丘疹(盛り上がった赤い発しん)が出現します。
数日にわたり新しい発しんが次々と出現しますので、 急性期には紅斑、丘疹、水疱、痂皮(かさぶた)のそれぞれの段階の発しんが混在するのが特徴です。すべての発しんが痂皮になるまで6日程度かかります。
特に特徴的なのは、頭皮のなかまでしっかり水疱ができるという点です。
しかし、予防接種が一般的になってから、水疱瘡の診断が難しくなってきたように思います。
それは、水疱が出現しても、ほんのわずかだったり、水疱瘡なのに、水疱を形成しないでおわるような例があったりという変化が起きているからです。頭皮にまでしっかり水疱ができるような水疱瘡はめっきり診ることがなくなってきたのが現状です。専門医ですらなかなか診断が難しくなってきたという感じがぬぐえません。
通常、軽症で終生免疫(一度の感染で生涯、その感染症にはかからない)を得ることが多いのですが、成人では重症になることがあり、髄膜炎や脳炎などの合併症の頻度も高くなります。
筆者はかつて、東京医科歯科大学で寄生虫博士として有名な藤田紘一郎先生の講義をうけたことがあります。(産業医の免許をとるための授業でした)その講義の中で藤田先生が研修医(医学生?)らと海外へ研究へいったおり、ひとりが水疱瘡を発症。成人になってからの水疱瘡はそれはそれはひどいもので、命はなんとかとりとめたものの、脳炎をおこしていたため知能は6歳児以下になってしまった、という恐ろしい話をききました。
また水疱瘡ウイルスは治癒後も体の中に潜伏していて、何年も経過してから「帯状疱疹」として再発することがあります。一生、体から消えることはないのです。
東京都感染症情報センターより一部改変、追記
水疱瘡の治療
一般的に 治療には抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど)を使用します。
古くから日本では、水疱に対してかゆみ止めとしてカチリという塗り薬と、抗ウイルス剤の飲み薬を投与するのが教科書的には当たり前でした。
ところが米国小児科学会の最新感染症ガイドレッドブックでは、別な治療法が書いてあるのです。R-BOOK2018-2021日本語版から抜書きしてみましょう。
「水痘に対する対症療法としてえ、ツメを短く保ち掻爬による受傷や二次感染を防ぐこと、頻回に入浴し、カラミンローションを使用し掻痒感をおさえ、発熱に対してアセトアミノフェンを使用することがあげられる」
~中略~
「経口アシクロビルまたはバラシクロビルは、水痘に罹患している以外は健康な小児に投与することはルーチンとしては推奨されない」
と、軽症の水疱瘡患者には抗ウイルス薬を使わないことが勧められています。
日本とは文化的、医療経済的背景がちがうので当たり前といえば当たり前ですが、こういう違いがあることをしっておくことも大切です。
専門医であれば、ひとつの治療方法だけにこだわりすぎず、科学的に柔軟性をもって考えることができるようになるからです。
ご家庭で気を付けていただきたいこと
発しん出現の1日から2日前からすべての水疱が痂皮化するまで感染性があります。
ご兄弟やご両親に感染するのを防ぐために、急いで予防注射をする方法があります。3日以内(遅くとも5日以内)にワクチンを接種すれば80%から90%発病を予防でき、家族内感染の予防や施設内感染の防止に有効とされています。また、発症した場合でも症状の軽減化が期待できます。
すべて痂皮化(=かさぶた)になったら登園許可証、登校許可証を発行することができます。このへんは地域によってルールが異なるのでかかりつけの先生と相談しましょう。
ワクチン接種をしたにもかかわらず、発症した湿疹のみの不全型水疱瘡は、かゆいのですが、ひっかいて掻き壊さないように爪は短くしておきましょう。切るだけだと鋭利になるので、ヤスリでまるめておくとよいです。赤ちゃんなら手袋させるのも効果的です。
入浴ですが、とくに禁止ではありません。お風呂でさっと汗を流しておくほうが、かゆみも少なく、化膿することも少ないものです。
食事ですが、口の中に水疱ができるとしみたり、痛かったりします。ですので、塩辛いもの、すっぱいものは嫌がることが多いでしょう。とくに食べてはいけないものはありません。
文責:杉原 桂