慢性糸球体腎炎(IgA腎症)について
尿潜血と尿蛋白を指摘されたら、慢性糸球体腎炎かも知れません
みなさんも尿の検査を定期的に受けることがあると思います。その尿検査で異常が指摘された場合に、病院を受診される人もいればしない人もいると思います。
この尿検査は早期に腎臓の病気を見つける重要な検査であり、わたしたちも早期に腎臓の病気が見つかれば透析になるのを防ぐことができます。非常に尿検査は大事な検査になります。
今回は、尿の検査で尿潜血と尿蛋白が指摘された場合の話をしていきます。単独で尿蛋白や尿潜血が指摘された場合の話は、今回は割愛しますが興味があればぜひ受診して医師に聞いてみて下さい。
尿蛋白はタンパクが尿中に漏れ出ている状態、血尿は尿中に血液の成分(赤血球)が漏れ出ている状態のことを示しています。
尿蛋白、尿潜血がともに陽性の場合には、腎臓の糸球体という部分に炎症が起こり、蛋白や赤血球が糸球体から漏れ出ている可能性を考えます(慢性糸球体腎炎)。
その他に高血圧による腎臓の障害、膠原病による腎臓の障害などを考える必要があります。このように尿蛋白と尿潜血がともに陽性の場合には、腎臓に炎症が強く起こっている可能性があるので詳しく調べる必要があります。
慢性糸球体腎炎で日本人に多いものが、IgA腎症という疾患です。IgA腎症は成人・小児共に男性にやや多く、発見時の年齢は成人では20歳代、小児では10歳代が多いが、患者層は全ての年齢にわたっています。
ただ、このIgA腎症と診断を確定させるためには、腎生検という腎臓に背中から針を刺して検査をする必要があります。腎生検は数日間の入院治療が必要になります。
この腎生検でIgA腎症の診断が確定したら治療が開始になります。IgA腎症の予後に関しては診断時の腎機能や症状によって異なってきます。
成人発症のIgA腎症では10年間で透析や移植が必要な末期腎不全に至る確率は15~20%、20年間で約40%弱といわれています。このように透析になりうる疾患であり、早期に認識・必要があれば早期に治療を行うことが重要です。
慢性糸球体腎炎(IgA腎症)の原因と症状
IgA腎症の原因
IgA腎症の原因は、まだはっきりと分かっていません。考えられている仕組みとしては、のどの扁桃腺や鼻の奥への細菌やウイルス感染の刺激によって形の変なIgAが作られ血中に増加し、この形の変なIgAに対して別のIgAやIgGなどのタンパクが作られ、それらがくっついて大きなタンパク質の塊ができ、それが、腎臓の糸球体に沈着して炎症を起こすことが考えられています。
IgA腎症の症状
病気の起こり初めは、炎症が少しだけなので、血尿がみられる程度です。血尿と言っても肉眼的に見える血尿ではなく、尿検査をしてみるとひっかかるような血尿(顕微鏡的血尿)です。
しかし、炎症がひどくなって糸球体の全体に広がると、タンパク尿も出てきます。さらに進むと、糸球体自体が働かなくなり、働ける糸球体の数が減っていき、腎臓の力がだんだんと落ちてしまいます。腎臓の力が落ちると透析治療が必要になってくる場合があります。
この腎臓の力は血清Cr(クレアチニン)やeGFRで表しています。イメージしやすいのはeGFRで、これは日本では
eGFR(mL/分/1.73 ㎡)=194×Cr-1.094×Age-0.28 (女性は×0.739)
で求められます。
eGFRを用いる理由としては、誤差はあるものの腎臓の残りの力がどの程度かをイメージしやすいからです。この数字が10-15をきってくると透析が必要な状況が近いと言えます。
なので、腎臓の力が落ちる前に早期に発見し、治療を行うことが非常に重要となります。
慢性糸球体腎炎(IgA腎症)の治療
IgA腎症は腎生検組織の状態によっても治療方針は変わってきます。
治療は保存療法と薬物・手術療法に大きく分かれます。
保存療法では、まず食事では塩分の摂取量を控えること(1日6g以下)が推奨されます。腎臓の機能が低下した場合にはタンパク質摂取量の制限も出てきます。
また日常生活では、適度な飲酒、激しくない運動が推奨されます。あわせて体重管理・禁煙も非常に重要です。
薬物治療では、レニン・アンジオテンシン阻害薬がまずは用いられます。
この薬は高血圧に用いられる薬ですが、糸球体の中の圧力を下げて仕事量を減らすことで、タンパク尿を減らし腎臓の力が落ちるのを抑えます。
薬を始めた頃に、一時的に血液検査でクレアチニンが上がったり、eGFR が下がったりすることがありますが、その後、検査数値が悪くならなければ、効果を発揮していると考えられます。タンパク尿が多い場合は、特に薦められる治療です。
蛋白尿が1g/日を超える場合や、腎生検で腎臓の炎症が強い場合には、ステロイド薬を使用します。
ステロイド薬は、IgA が原因で起こす炎症を抑える (火事を消す)ことで、血尿やタンパク尿を減らしたり、腎臓の力が落ちるのをおさえます。血尿やタンパク尿があって、腎臓の力がそれほど落ちていない患者さんほど、ステロイド治療のメリットが大きいと考えます。
逆に、腎臓の力がすでにかなり落ちてしまって、 炎症がある程度終わっている場合は、あまり効かないこともあり、使用を控える場合も多いです。
手術治療では扁桃摘出術があります。これは、日本では主に行われている治療です。
扁桃腺が病気のもとの一つ(火事の火種をつくる原因)、と考えられているので、これを取ってしまう扁桃摘出術をしばしば行います。これにステロドパル ス療法を加えた治療が,日本の多くの施設で行われています。
当院では確定診断で行う腎生検はできないので他院に紹介いたしますが、確定診断後のフォローに関しては可能です。尿所見が治療判定の材料になりますので、尿所見をみながら薬を減量していきます。
少しでも気になることがあれば、お気軽に相談してください。検尿異常がいちばん大切な所見なので、検尿異常があれば早めにご相談下さい。
文責:宮内 隆政