狭心症について
狭心症とは
まず、はじめに心臓は血液を送り出すポンプの働きがあります。心臓は筋肉の塊のような臓器で、ひと時も休むこ となく働き続けています。
心臓から送り出された血液は、血管を通って全 身に行き渡り、細胞に酸素と栄養を供給しています。そして、心臓の筋肉が必要としている酸素や栄養は、心臓の外壁に沿って伸びる「冠動脈」という血管の血液から供給されてい ます。
何らかの原因で血管が狭くなり、細胞の血液(酸素)の需要に対し、その供給が不足して起こる病気を 「虚血性の疾患」といいます(虚血とは、血液が少ないという意味です)。
虚血が心筋に起きる病気を「虚血性心疾患」といい、その代表が「狭心症」と「心筋梗塞」 です。
狭心症は冠動脈の内側の一部に、何らかの原因で狭くなる(狭窄)箇所が発生する疾患です。病変部分は十分な量の血液を通すことができず、心臓の筋肉が酸素不足に陥って悲鳴をあげる状態が狭心症発作です。発作は数分から15分程度で治まるため、狭心症が原因で亡くなることはありません。しかし治療せずに放置すると、次第に狭窄がひどくなり、やがて心筋梗塞を引き起こして生命に危機が迫るようになります。
狭心症は、冠動脈の状態から安静狭心症と労作性狭心症に分けることができます。
安静狭心症は冠動脈の一部が急に収縮して狭くなる「冠動脈攣縮」によって心臓の筋肉への血流が減少し酸素の供給不足によって起こります。安静狭心症の特徴としては明け方から午前中に起きやすいです。時間は5分から長いときには10分近く持続します。
労作性狭心症は運動や入浴で発作が誘発されるという特徴があります。通勤時の階段の上り下り、ゴルフ中、寒い時期の入浴時などに起きやすく、11月~3月ごろに多発します。
労作性狭心症の原因は動脈硬化です。まだ症状が軽く、発作の起きる間隔が長いものを「安定狭心症」、動脈硬化が進んで発作の頻度が多くなったり、ニトログリセリンが効きにくくなったり、発作時間が長くなったものを「不安定狭心症」とよびます。不安定狭心症は放置すると心筋梗塞になりやすく危険な状態です。
狭心症は、糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症(痛風)などの人は動脈硬化のリスクが高くなりやすいです。
また、肥満やコレステロールや脂肪の多い食事をとっている人、喫煙者、ストレス、A型行動パターン(仕事好きで一人で全て抱え込んで複数の事柄を同時に進めようとして絶えず時間に追われるような行動を取る人、攻撃的な性格の人)は狭心症になりやすいと言われています。
狭心症の自覚症状は、ときどき起こる胸痛発作です。発作時以外に症状はありません。
いったん発作が起きても、血流が回復し酸素の需給バランスが戻れば、症状は治まります。この点が心筋梗塞との違いで、心筋梗塞の場合、酸素供給がほぼゼロになって 心筋細胞が死んでしまうため、発作後も心臓の機能に何らかの影響が残ってしまうことがあります。
狭心症発作の典型的な症状は、胸がきゅっと絞めつけられるような痛みです。数分から長いときで10分近く続きます。突然強烈な痛みに襲われるのではなく、徐々に痛みが強くなるのが特徴です。
胸よりもむしろ、みぞおち、左肩、左 手、あごなどに強い痛みを感じることもあります。これを放散痛といいますが、 放散痛が強い場合には、狭心症を虫歯 や胃潰瘍などと間違うこともあります。高齢者や糖尿病患者などでは胸の痛みの症状がない場合も多いので注意が必要です。
狭心症の検査と診断
狭心症の検査については心電図検査(安静時心電図、負荷心電図)、冠動脈造影検査などがあります。
心電図検査
狭心症の発作時には心電図異常が現れます。しかし、病院で安静にしているときに発作が起きることは少ないです。
そこで、携帯型の心電図計(ホル ター心電計)を身につけ24時間連続で記録したり、 歩行器や自転車エルゴメーターを使った運動で発作を誘発し、発作の起こり方を調べる運動負荷試験などを行います。運動負荷心電図試験は、病気の程度の把握や治療効果の確認にも役立ちます。
冠動脈造影検査
冠動脈内に造影剤を入れ、レントゲ ン写真を撮って、血管のどの部分が狭くなっているかを確認します。病気の状態を正確に知ることができ ます。
このほかにも、超音波やアイソトープを用いる画像診断や血液検査などが、必要に応じて行われます。
狭心症の治療法
狭心症の治療は目的に応じて3つに分かれます。
①発作の症状を鎮める、②発作を予防する、③手術で血流を改善する方法です。
①発作の症状を鎮める
発作が起きたときは、硝酸薬(ニトログリセリンなど)を口に含み、舌の下で溶かします。
硝酸薬は、冠動脈を広げて血流を改善し、酸素供給を増やします。また、末梢の静脈も広がり血管内に プールされる血液が増加するので、心臓に帰ってくる血液量が減ります。その分、心臓の負担は軽くなり、心筋の酸素需要は減少します。これにより、心筋における酸素の需給バランスが回復し、発作が治まります。
いつ発作が起きても対応できるように、硝酸薬は携帯しておくといいです。
②発作を予防する
狭心症の発作は、心筋の酸素の需給バランスが乱れないようにすることで予防できます。
それには、心筋での酸素需要 を抑える方法と、酸素供給を 増やす方法があり、おもに次にあげる薬が使われます。持続性硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などです。
β遮断薬は労作性狭心症の人に主に処方され、カルシウム拮抗薬は主に安静時狭心症の発作予防に用いられます。
③手術で血流を改善する
冠動脈が著しく狭くなっている重症の場合や、薬の効果が十分でない場合は、手術治療が選択されます。足や腕の血管からカテーテルを冠動脈の狭窄部分(血管が狭くなったところ)まで入れて、カテーテルの先端に付けたバルーンを膨らませて血管を広げる方法がよく行われます。
ただし、これだけでは再び血管が狭くなることが多いので、予防のためステントという筒状の器具を血管内に 留置することもあります。
さらに、狭窄部分が複数箇所ある場合や冠動脈の大きな血管の場合には迂回する新しい血行路を作る、バイパス手術という治療法も用いられることがあります。
狭心症の治療後も、再発を予防するために
狭心症は一度治療をしたとしても、再発する可能性もある病気です。再発を予防するためには、心臓に血液や栄養を送る冠動脈が狭くなる原因にもなる動脈硬化を予防することが大切です。
先にも述べたように動脈硬化を引き起こしやすい原因として高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などが挙げられます。その点で塩分・糖分の取り過ぎ、お酒の飲み過ぎや暴飲暴食、喫煙、運動不足などの生活習慣を改善することは有効な予防方法です。
また、適度な運動を心がけて肥満を予防したり、肉類を少なめにして野菜を増やした食事、塩分量を控えた食生活、禁煙など日常的な取り組みが予防につながるので心がけましょう。
文責:宮内 隆政