杉原医師が考えるアトピー性皮膚炎
すべすべ肌をとりもどすために
昔の私は、アトピー性皮膚炎の患者さんが苦手でした。
なぜなら、治しても治しても
本当に重症なアトピー性皮膚炎の子どもたちはまた皮ふを悪化させて入院してくるのです。
「かゆいよーかゆいよー」
入院を繰り返している子どもたち。
「いったい、なんのために僕は小児科やってるんだろう?」
僕は自分が役立っている感覚が見つけられなかったからです。
皮膚の保護がだいじ
相模原病院という国立のアレルギー研究センターで、小児アレルギーをずっと学んできました。
そこでは本当に重症のアトピー性皮膚炎の子どもたちを徹底的に良くすることができる病院だったのです。
全身がかさぶたになってしまっているような乳幼児がいました。
きちんと適切なステロイドを定期的に塗布し、弱った皮ふにとりついた黄色ブドウ球菌やヘルペスを石鹸で洗い流すことを看護師さんたちが入院中にやってくれます。
そして、それをご両親にも指導して家でも同じことができるようにしていました。
「はじめてこの子がここまで皮ふがつるつるになったのをみました」
「私たちがこれまでやってきた1年間って一体なんだったんでしょう。この1週間でみちがえるように治ってしまって」
本当にここでの入院治療は効果的だったのです。
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ところが、自分が多摩センターで開業してから診察する皮膚炎をもった赤ちゃんや乳幼児のお子さんは、アレルギー専門病院のような重症な人は非常にまれ、でした。
むしろ正常ではないか、と思われるベビーたちまでが
「先生、これはアトピー性皮膚炎ではありませんか?」
「他の医院さんでアトピーかもしれないと言われました」
「採血をしてアレルギー検査をしたほうがいいのではありませんか」
ほんのわずかな皮ふの赤みをとても心配した親御さんにつれてこられるのです。
もちろん中には、皮膚炎を起こしているベビーも少なくありません。しかし、この子たちに洗浄を指導してもあまり改善はしないのです。と、いうよりも改善しなくなる、という印象がありました。
「いったいどうしてなんだろう」と僕は答えを探し求めました。
しばらくして意外なところで意外な答えをもらうことができました。
1つ目は外来小児科学会という学会です。
この学会で衝撃的な発表を聞いたのです。
「赤ちゃんの乾燥肌には、石鹸を止めなさい」
記録をしなかったので、はじめてきいた日付を覚えていませんが頭をガツンと殴られたような感じだけは覚えています。
川口市の田中秀朋先生の発表だったかもしれません。
その後似たような発表を繰り返し聞きました。
「いままで僕が教わってきたことと真逆なことをこの先生たちはおっしゃっている・・・」
「だけど、たしかにスライドの画像をみるかぎりこのベビーたちは着実に治っているという事実がある」
「もしかして、大学病院と開業医が診ている皮膚炎は名前は同じかもしれないが、ぜんぜんちがうものを診ている可能性があるぞ」
僕はこれまで勉強してきたものをあらためて、ゼロから見直さなければならない、と感じたのでした。
2つ目は形成外科の先生から似たようなインスピレーションをもらいました。
いまは有名になっている「新しい創傷治療」の夏井 先生です。
この先生のパラダイムシフトは傷の治療、やけどの治療だけでなかったのです。
アトピー性皮膚炎も皮ふの保護をどうするか、という視点をもらうことができました。
石鹸をとめるテスト
さいしょはおそるおそる、多摩センターで石鹸とめるテストの指導をはじめました。
もちろん100人指導すると、中には一人くらい、これだけでは改善しないベビーもいます。
しかし99人くらいはこれだけで治療が格段に楽になりました。
中には原因が食物アレルギーで皮膚炎をおこしている人もいます。
アレルギーとは別の原因で、じんましんを発症している幼児もいました。
石鹸ではなく、洋服の洗剤を変えてもらったり、ヒートテックをやめてもらうことで改善する乳幼児もいました。
原因がつきとめられない、真の意味でのアトピー性皮膚炎の子もいましたが、コントロールが効かないわけではありません。
近視の人がメガネをつかって日常生活を不自由なく送ることができるように、ステロイドを上手に使って、日常生活や睡眠などがじゃまされない生活を送ることはできるようになります。
皮膚炎の原因は人によって様々です。
だから「この方法で絶対なおります」という怪しげなことは口が裂けても言えません。
それはすでに医師ではなくて、ただの詐欺師だからです。
今では千代田区に開業して、お子さんたちの皮ふの改善にお役にたてている実感があります。
乳幼児の皮ふをきれいに保つことは、将来的な食物アレルギーをふせぐことにもつながっているのです。
あなたのお子さんにも、お役にたてることがきっとあると思っています。
文責:杉原 桂